今回は 固定 について。
固定液の種類、組成などを一緒に見ていこう!
固定 をする意味
固定は組織や細胞の腐敗と構造の変化を防ぐために行う。
適切に行わないと染色や免染、鏡検に影響が出る。
そのため固定は標本作製の初期の段階で行う必要がある。
固定 の方法(原理)
固定はまず①湿固定②乾燥固定に分けられる。
①湿固定は液体を使う
ホルマリン or アルコールがベースとなる。
②乾燥固定は液体を使わない
ここでは覚えることが多い湿固定について一つずつ確認していこう。
湿 固定
湿固定で覚えたいのは以下の5つ。
- 固定液の量
- 固定温度
- 固定時間
- 臓器ごとの固定方法
- 固定液の原理(2種)
- 固定液の組成
固定 液の量
組織体積の10~20倍以上が必要。
固定 の温度
通常は室温で良い。
温度を上げると固定を促進できるが組織に影響がある。
電顕や一部免染は4℃が良い。
固定時間
通常の固定時間は特に決まりは無いが、固定までの遅さや過固定は組織に影響を及ぼす。
また、遺伝子検査を考える場合は48時間以内の固定にとどめる。
臓器ごとの 固定 法
臓器ごとの固定方法をポイントだけおさえよう。
①脳
脳底動脈下に糸をくぐらせて、吊るした状態で固定。
②肺
気管支から液を注入して肺全体に行き渡らせる。
③消化器(胃や腸など)
臓器を開いた後、板に張り付けて固定する(変形防止)。
胃は大湾を切って開く。
腸は腸間膜に沿って開く。
④肝臓、脾臓
1cm厚に切ってから固定する。
⑤腎臓、リンパ節
切れ込み(割)を入れてから固定液に入れる。
⑦乳腺
注射器で固定液を注入する。
湿 固定 の原理(2種類)
まず湿固定には以下の2種類の原理がある。
- 架橋固定
- 凝固(脱水)固定
それぞれ特徴を見ていきましょう。
架橋 固定
アルデヒドを含む固定液でメチレン架橋を引き起こすものがある。
この架橋を起こす原理の固定を架橋固定と呼ぶ。
代表的な架橋固定の固定液はホルマリンであり、組織の多くはホルマリン固定する。
※メチレン架橋とは組織蛋白のアミノ基を反応して安定させること。
ホルマリンの特徴
ホルマリンのポイントをまとめると次の通り。
- 劇物
- 特定化学物質第2類に分類
- 褐色瓶に保存
- 空気より重い
- 酸化でギ酸、ホルマリン色素を生じる
(下に詳細解説) - 発がん性がある
- 作業環境測定は半年に一回
- 記録は30年間保存
- 管理濃度は0.1ppm
- 浸透速度は1時間に約1mm
- ホルマリンを含む固定液の種類
(下に詳細解説)
そもそも市販のホルマリンには、
- 日本薬局方ホルマリン(局方ホルマリン)
- 試薬一級・特級ホルマリン
の2種類がある。
1.局方ホルマリンはホルムアルデヒドの重合を防ぐためにメタノールが入っている。
ホルマリン色素
ホルマリンに漬けると組織中のヘモグロビンが変化して褐色のホルマリン色素が発生する。
このホルマリン色素は他の物質と見分けが難しいため除去する必要がある。
このホルマリン色素除去方法には2種類ある。
それぞれの方法に使う試薬が何かをおさえておこう。
- ベロケイ法
水酸化カリウム+エタノール - カルダセウィッチ法
アンモニア+エタノール
これらの溶液に標本を漬けるとホルマリン色素が消える。
ホルマリンを含む固定液5種類
ホルマリンを含む固定液は9種類あるが、以下の6種類を覚えよう。
それぞれのポイントだけはおさえたい。
①10%~20%ホルマリン
ホルマリン原液(37%ホルムアルデヒド)を10%~20%含む水溶液。
②中性緩衝ホルマリン
現在最も使われ推奨されるのはこれ。
中性であるため組織への悪影響が少ない。
ホルマリン、リン酸緩衝液が含まれる。
③10%中性ホルマリン
ホルマリン、炭酸カルシウム or 炭酸マグネシウムで中性にしたもの。
④10%等張ホルマリン
ホルマリン、塩化ナトリウムを含む。
⑤ブアン液
ホルマリン、ピクリン酸、氷酢酸を含む。
内分泌組織に有効。
ピクリン酸を含むため組織が硬化しやすい。
組織が黄色に着色する。
ホルマリン以外のアルデヒド系固定液
ホルマリン以外でアルデヒドを含む固定液は以下の3種類。
①グルタルアルデヒド液
電顕の前固定に使われる。(電顕は2種類の液で固定されるため最初に使う固定液を前固定という)
浸透速度は1時間に約0.5mmと遅い(ホルマリンは約1mm/h)
②パラホルムアルデヒド液
免疫染色に有用。
PLP液とザンボーニ液にも使われる。
③PLP液
パラホルムアルデヒド、リン酸緩衝液、メタ過ヨウ素酸を含む。
免疫染色に有用であるが、糖鎖抗原の検出には向かない。
④ザンボーニ液
パラホルムアルデヒド、ピクリン酸を含む。
免疫染色に有用。
ピクリン酸を含むため組織が硬化しやすい。
凝固(脱水) 固定
凝固固定は脱水して組織を固定する。
アルコールがベースとなり、以下のような特徴がある。
●グリコーゲン、粘液などの保存に有用。
●脂肪を溶かすため脂肪染色には使えない。
●細胞や組織が収縮する。
アルコール系の 固定 液
アルコール系固定液は2種類。
- エタノール
- カルノア
カルノアの組成を以下のゴロで覚えておきましょう。
固定 液の覚え方
ここまでに紹介したもの以外にもいくつか覚えたい固定液がある。
以下の5つを含む固定液をここで紹介する方法で覚えてみよう。
①アルデヒド系固定液
②アルコール系固定液
③重クロム酸を含む固定液
④昇汞を含む固定液
⑤ピクリン酸を含む固定液
アルデヒドを含む 固定 液の覚え方
①名前にホルマリンが入っている。
②PLP固定液のPはパラホルムアルデヒドのP
※ホルムアルデヒドとパラホルムアルデヒドは別物なので要注意
③ザンボーニだけ頑張って覚える。
④ブアンはゴロで覚える(ゴロは↓)。
アルコールを含む 固定 液
アルコール系固定液はエタノールとカルノアだけなのでそのまま覚えた方が早い。
ただカルノア液はゴロで覚えるのがおすすめ。
\カルノア液のゴロ/
重クロム酸を含む 固定 液の覚え方
重クロム酸を含む固定液は1文字目に濁点が付けられないものとして覚えよう!
※最初から濁点が付いているものもダメ。
●Ortho(オルト)
●Müller(ミュラー)
昇汞を含む 固定 液の覚え方
昇汞を含む固定液は
①1文字目に濁点が付けられる
②マキシモウは頑張って覚える
●Helly(ヘリ―)
●Zenker(ツェンカー)
●Susa(スーサ)
●Maximow(マキシモウ)
ピクリン酸を含む 固定 液の覚え方
ピクリン酸を含む固定液は1文字目に濁点が付いているもの。
電顕の固定液
電子顕微鏡はは前固定と後固定の2回固定を行う。
①前固定
2~4%グルタルアルデヒド
②後固定
1~2%オスミウム酸
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