今回は 脱脂 と 脱灰 について。
それぞれが何なのか、そしてどうやって行うのかをポイントを絞って解説していきます。
脱脂 と 脱灰とは
脱脂と脱灰の意味は以下のようにシンプルです。
●脱脂
脂肪を除去して標本作製しやすいようにする。
●脱灰
骨など石灰化組織を軟らかくして標本作製しやすいようにする。
国家試験ではこれらをどのように行うか、どの試薬を使うかを覚える必要があります。
一つずつ確認していきましょう。
脱脂 で覚えること
脱脂は脂肪を除去すること。
脱脂については次の2点を覚えましょう。
- どのタイミングで行うか
- 何を使って行うか
脱脂 のタイミング
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標本作製の流れは上図の通り。
脱脂は固定、切り出し後に行う。
脱灰を行う場合、必ず脱灰前に行う。
※凍結切片作製では脱脂を行わないため注意。
脱脂 作用がある試薬
脱脂に使える試薬は以下の5つ。
- エタノール
- キシレン
- メタノール
- クロロホルム
- アセトン
これらを混合(メタノール・クロロホルムなど)してもよい。
※標本作製過程でエタノールやキシレンを使用するため、改めて脱脂を行わなくても多少脱脂される。
脱灰 なぜ行うのか
脱灰は硬い組織を切るために行う。
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上図に示すように組織処理には薄切(薄く切る)工程がある。
骨などの硬組織は柔らかくしないと切れない。
そのために脱灰を行う必要がある。
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脱灰 で覚えること
脱灰について覚えるのは次の5点。
- 脱灰のタイミング
- 酸脱灰液の種類と特徴
- EDTA液の特徴
- 脱灰の影響
- 脱灰中と後の注意点
脱灰 のタイミング
適切な脱灰には十分な固定と十分な脱脂が必要。
そのため固定、脱脂の後に脱灰を行う。
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脱灰 液の種類
脱灰液には以下の6種類がある。
●酸脱灰液
・無機酸
①塩酸②硝酸
・有機酸
③ギ酸④トリクロロ酢酸
・⑤迅速脱灰(プランク・リクロ)
塩酸+ギ酸+塩化アルミニウム
●⑥エチレンジアミン四酢酸(EDTA)液
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酸 脱灰 液
酸脱灰液には無機酸と有機酸と迅速脱灰液の3種類がある。
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●塩酸
無機酸の一つ。
脱灰力が強く、組織障害や染色性低下が生じる。
脱灰後に中和が必要。
プランク・リクロ液の成分にもなる。
●硝酸
無機酸の一つ。
脱灰力が強く、組織障害や染色性低下が生じる。
脱灰後に中和が必要。
●ギ酸
有機酸の一つ。
脱灰力が弱く、組織障害や染色性低下が生じにくい。
脱灰後は直接70%エタノールで洗う。
●トリクロロ酢酸
有機酸の一つ。
脱灰力が強く、組織障害や染色性低下が生じる。
脱灰後は直接70%エタノールで洗う。
●プランク・リクロ液(迅速脱灰液)
脱灰速度が速く迅速脱灰法とも呼ばれる。
塩酸+ギ酸+塩化アルミニウムで構成される。
脱灰力が強いため4℃の低温で行う。
脱灰後に中和が必要。
エチレンジアミン四酢酸液(EDTA液)
EDTAは骨などのカルシウムイオンを捕まえて軟らかくする。
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以下の2種類が存在する。
①アンモニア水 or 水酸化ナトリウムを含むEDTA・2Na
②塩酸 or クエン酸を含むEDTA・4Na
・中性であるため組織障害や染色性低下が少ない。
・免染や電顕、遺伝子検査検体に有効。
・脱灰後は水洗する。
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脱灰 の影響
脱灰は酸などを使うため脱灰が長い(強力)と組織に悪影響を及ぼす。
主な影響は以下の3つ。
①染色性の変化
②組織の膨化
③抗原性の減弱
染色性の変化
HE染色では核のヘマトキシリンが染色低下、細胞質のエオジンが濃染する。
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組織の膨化
組織が膨化したり溶解したりする。
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抗原性の減弱
脱灰によって抗原性が減弱するため免疫染色に影響する。
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脱灰 中の要点
脱灰を適切に行うために次のような点に注意する必要がある。
●脱灰液の量
組織体積の100倍以上
1日に1~2回新しい液に交換(濃度は一定)
●脱灰液の温度
温度が高いと脱灰が早いが組織障害も強い。
酸の脱灰は15℃前後
免染などで抗原が気になる場合は低温(4℃)
中性のEDTA液は30℃
●脱灰する場所
液の上層で行う(下層は脱灰能力が低下するため)
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●脱灰を早める方法
①振盪②撹拌③超音波、マイクロ波
●液が入った蓋
酸脱灰液を使う場合は、ガスで蓋が開かなくなるため開けておく。
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脱灰 後の要点
●脱灰完了の確認方法
メスで抵抗なく切れるか、針が刺されば脱灰完了。
●無機酸脱灰後の処理
無機酸(塩酸、硝酸)を含む脱灰液は中和後水洗が必要。
中和は①硫酸ナトリウム②硫酸リチウム③ミョウバンを使う。
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●有機酸脱灰後の処理
有機酸(ギ酸、トリクロロ酢酸)を含む脱灰液は70%エタノールで洗う。
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その他の 脱灰 法
脱灰法には①酸②EDTA③電気④イオン交換樹脂を用いた方法がある。
今回は国試に頻出の①酸②EDTAを用いた方法を紹介した。
残りの③電気④イオン交換樹脂に関してはそんなのがあるんだと名前を知っておいてください。
コメント
質問です。
EDTAは中和は不要だが水洗がいると先生に教わりました。しかし、教科書には書いておらずどこを探してもその記述が見つかりません。
本当に水洗はいるのでしょうか。
教えてほしいです。
ご質問ありがとうございます(^^)
先生の言われる通り、「中和は不要だが水洗する」で大丈夫だと思います(‘◇’)ゞ
この記事にも追記しておきます!
ありがとうございました!
ご返信ありがとうございます。
水洗が必要なんですね。
なぜEDTAは水洗がいるのかわかりません…
組織は膨化しないのでしょうか?
もし知っていたらご教授いただきたいです。
>>なぜEDTAは水洗がいるのかわかりません…
次の液にEDTA-Caを持ち越したくないからじゃないですかね
次の違う液に入れるときは出来るだけ前の液を持ち越さないのが理想だと思いますが、そのためじゃないですかね
>>組織は膨化しないのでしょうか?
水洗による組織膨化は無機酸で生じるのでEDTAは大丈夫だと思います
もし他にも解決できてないことがあれば気軽に質問ください!