【病理組織の薄切】イメージしづらい薄切をイラストで徹底解説


今回は薄切について。
可能な限りイラストにしてるからイメージできるようにしてみてね。
薄切とは検体を薄く切ること
包埋した検体を薄く切ること。
薄切で薄くなったものは切片と呼ぶ

検体は採取してからまず固定が行われます。
固定の解説はこちら
次に脱水・脱脂・脱灰が行われ、
脱脂・脱灰の解説はこちら
パラフィン浸透後、包埋してから薄切です。
包埋の解説はこちら
薄切は光を透過させるために行う
診断を行うためには顕微鏡で検体を見る必要があります。
顕微鏡についてはこちら

診断に使う顕微鏡は光を透過して初めて観察できます。
検体を薄くしないと光が透過できません。
そのために薄く切る(薄切)必要があります。
薄切にはミクロトームを使う
薄切をするにはパラフィンなどで包埋したブロックとミクロトームが必要です。

5種類のミクロトームを覚える
包埋されたブロックを薄く切る機器のこと。
ミクロトームは動きの違いで次の2種類に分けられます。
滑走式ミクロトーム3つ
ハンドルを引いて(滑走させて)薄切する機器。
包埋したブロックを固定した状態で刃を自分で動かす。
- ユング型
通常のパラフィン包埋ブロックの薄切に使う。 - シャンツェ型
通常のパラフィン包埋ブロックの薄切に使う。ユング型より小型。 - テトランダー型
セロイジン包埋やパラフィン包埋ブロックに用いる大型のミクロトーム。
【特徴】
- クロスローラーベアリング式が一般的
- 引き角が変更可(基本は45°)
- 比較的大きい組織も切れる
回転式ミクロトーム2つ
ハンドルを回転させて薄切する。
固定した刃に当たるように包埋ブロック(試料)を自分で上下に動かす。
- ミノー型
パラフィン包埋ブロック、凍結標本、電顕の薄切に使う。 - ザルトリウス型
凍結切片に使う。
【特徴】
- 引き角が90°で固定
- 連続切片が切りやすい
- クリオスタットに使われる
- 電顕用ウルトラミクロトームに使われる
ミクロトーム刃の角度を刃角と呼ぶ
刃の先端の角度を刃角と呼び、角度によって切れ味と耐久性に違いが出ます。
- 角度が大きい
切れ味が悪く耐久性が高い。 - 角度が小さい
切れ味が良く耐久性が低い。
製品により角度に種類がある。
薄切には引き角と逃げ角がある
ブロックにあたる刃の角度のこと。
角度の調整は刀台と呼ばれる刃を付ける場所で行う。
切れ味や切片の質に影響し、滑走式と回転式で角度が異なる。
- 滑走式:45°
- 回転式:90°

※滑走式は引き角を変更できる。
硬い組織は45°、軟い組織は90°が良い。
切った時の刃の下面とブロックの角度。

- 滑走式:2~5°
- 回転式:2~10°
※両方とも3~5°程度で覚えればOK
薄切の重要な工程3つと4つのポイント
組織の全体が出るまで不要な部分を削る作業。

面が出る前は白っぽいが、組織でてくると光沢が出てくる。

上画像の赤い部分は面が出ていない部分で白っぽい。
冷やすことで切りやすくなる。
組織によっては冷やさなくてもよい。
通常3~4μmの厚さに切る。
以下の染色ではそれ以外の厚さで切る。
- 神経系の染色:厚め(5~10μm)
神経系染色のまとめ解説はこちら - 渡辺の鍍銀染色:厚め(6~8μm)
渡辺の鍍銀染色の解説はこちら
- 糸球体基底膜の染色:薄め(1~2μm)
PAM染色の解説はこちら
PAS反応の解説はこちら
AZAN染色の解説はこちら
MT染色の解説はこちら
- 切片の厚さは
①薄切速度②温度などの条件で変化する - 息や水蒸気を当てながら切る
(静電気を除去する) - 一定の速さで切る
- 脱灰が必要なものは粗削り後に
表面だけ脱灰液に漬け(表面脱灰)た後に切る
4種類の不良な切片とその原因
不良な切片には主に以下の4種類がある。
- まっすぐな傷
原因:刃の傷(硬いものを切ったなど) - 波打つ線(チャタリング)
原因:刃やブロックの固定不備など - 薄切困難(バラバラになるなど)
原因:パラフィン浸透不足 - 厚さのムラ
原因:滑走路の錆などによる不安定な薄切速度 - しわや刃への付着
原因:部屋の温度や湿度
切片のまっすぐな傷の原因と過去問

https://www.mhlw.go.jp/topics/2011/04/tp0414-5.html
石灰化など組織内の硬いものに当たり刃こぼれ(刃に傷がある)すると起きやすい。

問題例
動脈の H-E 染色標本を別に示す。
矢印で示すのはどれか。
1.石 灰
2.ムコイド
3.類線維素
4.アミロイド
5.硝子様物質

https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/topics/tp180511-07.html
- 答えと解説はこちら
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1. 石灰
組織内のひび割れ(赤矢印)は硬い石灰化などで起こりやすい。
この様な組織を切ると刃に傷がついて切片全体に傷が入るようになる。
切片に波打つ線(チャタリング)

刃やブロックがミクロトームにうまく固定されていない場合、波打つように切片が切れる。

厚く切れた部分は濃く染まり、薄く切れた部分は淡く染まって見える。
この現象を チャタリング という。
薄切困難はパラフィン浸透不良
組織内には隙間がたくさんあり、それを埋めるためにパラフィンを浸透させ包埋を行う。

パラフィン浸透が不良の場合、組織が固まらずうまく切れない。
切片がボロボロになる。
固定、脱水、中間剤の浸透がうまくいっていないとパラフィン浸透は不良になる。

切片の厚さのムラは薄切スピード
薄切を一定のスピードで行うことで均一な厚さの切片が切れる。

1枚を切る途中で速さを変えると、一つの切片上で厚さが変わる。
1枚目と2枚目で速さを変えると1枚目と2枚目の厚さが変わる。

滑走路の錆や技術的な問題などで速さが安定しない場合に生じる。
また、厚く切りすぎると刃の上で巻きやすくなる
切片のしわは室温、刃への付着は乾燥
切片のしわは室温が高い場合によりやすくなる。
刃への付着は静電気によるものが多く、乾燥によって生じる。
そのため蒸気や呼気を当てながら切ると軽減される。
薄切後の4つの処理
薄切した切片を水に浮かべて大きなしわを伸ばす
パラフィン融点の10~15℃低い温度のお湯に浮かべて細かいしわを伸ばす
- 軟パラフィンの融点
45℃~52℃ - 硬パラフィンの融点
54℃~58℃
(基本的にはこれが使われる)
免染時などは剥離防止スライドを使うと良い。
パラフィン融点の10~15℃低い設定の伸展器に載せて乾かす。
乾かすことで水分による気泡の発生を防げる。